『FIRST FLUSH』
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-20XX年11月XX日 日本 東京 AM0:02 -
ピ…
静かな部屋に短い機械音が聞こえてきて、床に寝転がっていた男は腹筋だけで起き上がった。
狭い部屋に明かり灯っておらず、折りたたみのテーブルに乗せたパソコンだけが不気味に青白く光っている。
男はノートパソコンのキーボードに手を伸ばした。
The climate here doesn't agree with me.は単なる世間話ではなく、それが会話に秘められた暗号だった。
暗い画面に浮かび上がる白い文字の羅列に男は唇を噛み、
そこまで打つと、コードナンバーが浮かび上がった。
▼Homologation Number▼ EZ1-039PE79-LG3A-***
P.1
メンバーに与えられた承認コードを比較して、男も自分の承認コードを入力した。
オンラインのチャット画面から追跡不可能なログを取り入れたチャット場面へとパッと切り替わる。
PCに文字が流れた。
Killed……
P.2
分かっていたことなのに、その文字を目に入れただけで、心臓が強く打った。
鈍器で殴られたかのように激しい頭痛がして、気道が締め付けられる。
呼吸困難から逃れるために手を伸ばすも、目の前のPCがKilledの赤い文字いっぱいに埋め尽くされる。
PCの端から赤い血もにじみ出てきて、男は短く悲鳴を挙げ、PCから手を離した。
「何を考えている。これは幻覚だ」
自分に言い聞かせながらテーブルに爪を立て、心臓の辺りを強く握ると、いくらか呼吸が楽になった。
そう、これは幻覚なのだ。
SYからメッセージが流れてきて、通常通りの画面に戻ったことにほっとしながら
呼吸困難でまだ痺れの残る指を何とか動かせる。
男…Tはそれだけ打ってログオフしチャット画面を消そうとしたが、
■ mission cord : Prince Autumnal ■
「プリンスオータムナル」
彼は作戦名を口の中で唱えて、テーブルに置かれた拳銃を手にとった。
「失敗はしない」
必ずやり遂げてみせる。
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