Fahrenheit -華氏- Ⅱ

 

運命に惑わされ、陰謀に溺れて

 

 

■Correction(修正)■

 

 

 

 

 

 

 

*Correction*

 

 

 

 If my life is correct,

(人生に修正が利くのなら、)

 

I will do anything.

(私はいくらでもする)

 

Overwriting, and then overwriting again,

(上書き、そしてまた上書きを繰り返して)

 

That place that should be white,

(真っ白な筈のその場所は)

 

By repetition of correction, someday it gets cloudy black,

(修正の繰り返しで、いつか黒く濁ってしまって)

 

 

And I notice.

(そして気づく)

 

 

I can’t correct my life.

(人生に修正なんて利かないんだ)

 

 

realize.

(と)

 

 

No,

(そう

 

 

You can’t correct your life.

(人生に修正は利かない)

 

 

You only live once.That moment can not be erased.

(たった一度きり、その瞬間は消せないの)

 

 

 

 

 P.537


 

 

 

「しかし、人事部にコネがあると言うことはどういうことでしょう。

 

 

麻野さんのデータをそこまで簡単に引き出せるとは、情報管理が甘いですね」

 

 

と、急に仕事モードONの瑠華サン。

 

 

まぁ、確かに??個人情報保護法って言葉、人事の人間なら当たり前に守らなきゃなんねぇだろ!

 

 

漏えいするとは、どうゆうことだよ!!

 

 

「まぁ、二村さんは色々人脈をお持ちのようですので、特に女性社員に対しては」

 

 

瑠華がちょっと刺々しく言い放った言葉に俺は頷いた。

 

 

なるほど二村は、認めたくないが甘いルックスに、女を手玉に取る術に長けてるからな。

 

 

あいつがちょっと甘い言葉をかけりゃ女の社員なんてイチコロだよな。きっと情報源は女子社員に違いない。

 

 

裕二の身長体重や血液型を知っていたのは、健康診断の結果が人事のシステムに管理されてるからだよな。

 

 

でも……俺はあんまり人事部に用がないから良く分からないが、確か主任以上の権限(まぁ社員証にもなってるIDをPWがあれば)が無いと個人情報のデータを閲覧できない筈……

 

 

ってことは……!?

 

 

 

 

あいつ……間違いなく年上キラ―だな!

 

 

 

 

と、突っ込むとこそこじゃないだろ!と自分にノリツッコミをかます。

 

 

「裕二に人事のシステムを見直すように頼むよ」

 

 

「それが得策ですね」

 

 

「しかし、もしそうなりゃ厄介だよなー。

 

 

二村のヤツ、あんな犬っころみたいな顏してやることえげつねぇな。何だか村木が可愛く見えてくる」

 

 

「村木さん……?」

 

 

瑠華が突如として引っ張られた名前に反応した。

 

 

何か閃いたように慌てて顔をこちらに向ける。

 

 

ど、どーした!?

 

 

「村木さんですよ」

 

 

「あ、ああ……アイツがどうした?」

 

 

てかプライベートにまで陰険村木の名前を聞きたくもない、ってのが本音。早くこの会話を終わりにしたいが

 

 

 

 

 

「彼がキーマンです」

 

 

 

 

瑠華の言葉に俺は目をまばたいた。

 

 

まばたきするその一瞬に、この話が終わればいいな、と思ったが

 

 

瑠華の発言で、その考えが変わった。

 

 

「以前仰っていましたよね。銀座の会席料理屋に、神流派の瓜生常務と緑川派の鴨志田監査役が密会していた、と。

 

 

そこへ現れたのが二村さんと…」

 

 

瑠華が続けて

 

 

 

 

 

「村木―――……」

 

 

 

 

 

俺が最後の名前を出した。

 

 

 

 

P.538


 

 

 

二村は村木に利用されてる。村木に何か良いように言いくるめられて使われているだけ―――

 

 

と、考えていたが

 

 

 

 

―――果たしてそうなのだろうか。

 

 

村木に言いくるめられただけで、女を利用してまでのし上がろうとするだろうか。

 

 

今回の件で、二村にその行動力があり、また実行力があることをまざまざと見せつけられた。

 

 

「関係性が逆だとは考えられませんか?」

 

 

瑠華が親指と人差し指で作った二本の指をくるりと逆回転させ、

 

 

「逆?」

 

 

俺は間抜けに返した。

 

 

「そうです。二村さんは村木さんの立場を隠れ蓑として、

 

 

 

 

彼を利用している。

 

 

そう考えた方が妥当です」

 

 

瑠華の突拍子もない発想に、俺は

 

 

 

 

何故だか笑えてきた。

 

 

 

 

「あ~、ないない!それはぜってぇない!

 

 

だってあの村木だぜ!?裏でコソコソ動くのはあいつの専売特許だ。

 

 

村木が二村を利用してるんだって」

 

 

まぁ、一瞬俺もその突拍子もない構図を描いたが。

 

 

でも

 

 

「現にアイツが……村木がコソコソそれらしい話を携帯でしてたの、瑠華だって見たろ?聞いたろ?」

 

 

同意を求めるつもりで窺ったが、

 

 

「本当にそうなのでしょうか」

 

 

とたった一言。

 

 

「は?」

 

 

「村木さんのことですよ。彼は別の問題を抱えていて、そのことに気を取られている、と言う感じはしますが」

 

 

「別の問題ぃ?ま、あいつが問題抱えてても俺にはノープロブレムだがな。

 

 

俺たちにゃ関係ねぇ。

 

 

だけど、そいや、最近ピリピリしてるよな。緑川を派手に叱りつけてたし。

 

 

てか、もし別問題を抱えてたとしても、そのストレスを緑川にぶつけるなよなーって…思わない?」

 

 

「確かに……そうですね」

 

 

と、瑠華は歯切れの悪い返事。

 

 

よっぽど村木の“別問題”が気になっているのか、或は別のことを考えているのか

 

 

相変わらず精巧に創られた人形のように整ったその顔から

 

 

感情を読み取ることはできなかった。

 

 

 

P.539



 

 

 

それから会話は途切れ、車は首都湾岸線高速に乗った。下で行くと渋滞は免れないから上を選んだが、それでもやはり同じ考えの人間が多いのか、車は40キロのスピードしか出せずトロトロと前方車の連なりを見て舌打ちしたくなった。

 

 

この妙な沈黙が重い。

 

 

いつもなら俺はどーでも良いことを言っては、瑠華が適当に相槌を打つって感じなのに←それもどうなの??って思うケド

 

 

でも、今はその「どーでも良い会話」も出てこない。

 

 

さっきまで神妙に話し合っていた神流派だの、緑川派だの会社の派閥争いのことで悩んでいたわけではない。

 

 

かと言ってさっきの裕二の家でのやりとりを思い起こしているわけでもない。

 

 

心音ちゃんとのことでもない。

 

 

 

 

 

さっき綾子が電話で言ってた

 

 

瑠華の様子がちょっと異常に見えた―――

 

 

 

 

 

と言うことを考えている。綾子はあからさまに訝しんだり退いたりはしていないようだが、瑠華の様子を心配している、と言うことは確かだ。

 

 

瑠華は―――

 

 

何事も無かったかのように、俺に携帯を手渡してきた。

 

 

絶対に“真咲”の名前を見た筈なのに。

 

 

その後、ご機嫌を取り戻して「信じます」と言う言葉だってくれたのに。

 

 

でも、

 

 

彼女の言葉じゃなく、心が

 

 

 

 

―――追いついていないんじゃないか。

 

 

 

 

 

そんな風に思えた。

 

 

裕二の言葉をふと思い出す。

 

 

 

 

『綾子を守りたい―――って言ったけど、俺本当は

 

過去の女を清算できなかった俺のことを知られると、綾子に嫌われると思った。

 

 

 

自分の保身で、柏木さんと啓人を

 

巻き込んだんだ』

 

 

 

 

 

裕二の言葉で気付かされた。

 

 

 

俺……

 

 

俺がやってることも―――ただ瑠華を傷つけたくない、とかじゃなく

 

 

ただ自分の保身なんじゃ

 

 

 

葛西JCTを過ぎた辺りで、俺は口を開いた。

 

 

この後、心音ちゃんを迎えに行くから二人きりで喋れる時間が取りづらくなると考えると、今話しておかないといけない。

 

 

 

 

 

「あのさ…!」

「あの……」

 

 

 

 

 

 

俺と、瑠華の問いかけが同時に出て、俺は一瞬瑠華の方を見た。

 

 

 

 

 

P.540


 

 

 

今日は風が強い。少しのよそ見でハンドルが取られる。車体が僅かに傾いたのをはっきりと体で感じて、俺は改めてハンドルを握りしめた。

 

 

少し強めにハンドルを握り

 

 

「あのサ……さっきさ…」と、敢えて瑠華からの返事を待たず俺が先に話しだした。

 

 

何でかなぁ。

 

 

瑠華も同じことを考えている気がして。

 

 

だからこそ、尚更俺からちゃんと伝えなきゃならない。

 

 

瑠華の方も俺が何を言い出すのかある程度予想ついていたのか、敢えて口を挟むことはなかった。

 

 

 

 

 

「携帯、見たよね。

 

 

“真咲”の名前―――」

 

 

 

 

 

はっきりと『真咲』と言う名前を出したときは、流石に声が上擦った。

 

 

瑠華は肯定の意味か、ゆっくりと頭をこくりと頷かせた。

 

 

またもハンドルが取られ俺は軌道修正にかかる。

 

 

車体はまっすぐに向かったが、この先の俺たちの会話で俺たちの未来を

 

 

 

 

 

軌道修正できるのだろうか。

 

 

 

 

P.541


 

 

 

 

「真咲さん…とは以前から面識があったのですか?」

 

 

瑠華が聞いてきて、今度は俺が大きく頷く番だった。

 

 

変だな。

 

 

少し前の俺だったら、俺のどんな小さなことも疑問に思って聞いてくれる瑠華に嬉しさを覚えていたのに、むしろもっと俺のこと知ってほしいとさえ思っていたのに、今はあの楽しさとか、ワクワク感が全く感じられない。

 

 

むしろ知られたくない。

 

 

俺は以前……大学時代にあいつと知り合って、何となく付き合うところから話しはじめた。

 

 

俺の言葉一つ一つに瑠華は丁寧に「ええ」とか「はい」とか短くだが答えてくれて、だがそれ以上の突っ込んだ質問はされなかった。

 

 

付き合いは一年程で終わったこと、終わりのキッカケはあいつの浮気で、

 

 

だが、それ以前と以後の出来事は伏せて置いた。

 

 

一番話さなきゃならない重要なことなのに、臆病な俺はそれが言えないでいる。

 

 

真咲が何故浮気したのか。浮気した後に100万せしめとっていった、とか。せしめとられた理由を問われれば、それを話さなければいけない。

 

 

嘘ではないが、意図して隠してるわけだから

 

 

結果、嘘になるんだろうな……

 

 

「……浮気……ですか…」

 

 

瑠華が「ちょっと意外」と言った感じでまばたきを繰り返している。

 

 

「まぁ俺らも若かったからな、あいつのほんの出来心だと思ってる。事実、俺は当時バイト三昧でろくに真咲を構ってやることができなかったから、あいつも寂しかったんだろうな……仕方がないっちゃないが」

 

 

そう考えたら、俺って心が狭いのかな。瑠華なんて元旦那のオーランド…もといマックスに浮気されまくりなのに、何度も堪えてきて。

 

 

まぁ結婚と、付き合いだったらレベルも違うし、生活もあるからなかなかすぐに別れることなんてできないもんだが。

 

 

うちの親父とおふくろも離婚の際は揉めたからな。

 

 

てか、よくよく考えたら俺も親父も似たような人生送ってたンだな。

 

 

仕事ばかりでパートナーを顧みず……

 

 

でも……俺は今、仕事もパートナーも同じだけ大事で。

 

 

どちらも失いたくないんだ。

 

 

 

 

 

親父のようにはならない。

 

 

 

 

 

「まぁ?その後、俺も派手に遊んでたからあいつのこと責められないケドね」

 

 

「まぁ、そうですね」

 

 

と、瑠華は冷たくてキツイ。

 

 

いつも通りの瑠華節!!!

 

 

 

 

何か安心するっ!!

 

 

って、俺……やっぱどM道まっしぐらじゃん。

 

 

 

 

 

 

P.542


 

 

「それが何故今頃、あなたにコンタクトを?」

 

 

瑠華がちょっと訝しむように声を低め、

 

 

「さぁ、分かんない」

 

 

これは正直な気持ちだ。

 

 

俺の幸せをぶち壊したい、と言う素振りであったが、何か……違う気もするし。

 

 

「てか、アイツ結婚するの。あのセントラル紡績の営業マンで菅井さんって人覚えてる?あの人と」

 

 

「え?」

 

 

瑠華がちょっと驚いたように肩を震わせたのが気配で分かった。

 

 

「彼らは仕事上でのパートナーでもありましたよね」

 

 

「まぁ、そうだね。俺らみたいだネ♪」

 

 

と付け加えると

 

 

「それはどうでもいいんです」

 

 

とまたも冷たい一言。て言うかどーでもいいこと??クスン……啓くん悲しい↓↓

 

 

とイジけてる場合でもない。

 

 

「変と言っちゃ変だけど……

 

 

でも、アザールとの取引をどうしても成立させたかったから、俺を利用したんじゃないのかな。最初はね」

 

 

「結果、引き合いが掛かっていてポシャったわけですが。

 

 

だから再びその恨み言を言いに?」

 

 

言って、しかしどこか腑に落ちてないように首をひねった。

 

 

「正直、俺にもわっかんねーんだよ。

 

 

アイツと再会したのはホントに偶然。セントラル紡績に就職してたことすら知らなかったし。

 

 

それで……

 

 

あの打ち合わせの後…」

 

 

「そう言えば、啓の戻りが遅かったのは確かですね。確か……真咲さんが携帯を忘れて行かれて、それを啓が届けに行ったんですよね」

 

 

時系列を確認するかのように瑠華が淡々と聞いてきて、俺は頷くしかできなかった。

 

 

ホント……瑠華ちゃんは、良くも悪くも記憶力がいいんだから……

 

 

 

 

P.543


 

 

 

前方を走る車のスピードが落ちた。だから俺もスピードを落とす意味合いで後続車にハザードで報せる。

 

 

音楽の掛かっていない車内にハザードのカチカチッと言う音だけが響いた。

 

 

きっと俺のハザードランプが赤く点滅しているに違いない。

 

 

赤は

 

 

 

 

『止まれ』を意味している。

 

 

 

 

 

ストップだ、啓人。これ以上深く話すわけにはいかない。

 

 

何となく、そうゆう警告が自分の頭の中で流れた。

 

 

俺が話を終わらせると、瑠華もそれ以上二人の関係について深く突っ込んでは来ず

 

 

「タバコ……よろしいですか…?」

 

 

遠慮がちに言ってパワーウィンドウを開ける。

 

 

窓をほんのちょっと開けても、防風が侵入してこない程度にスピードは落ちていた。

 

 

瑠華はシガレットケースからいつもの細いタバコを取り出して口に咥え

 

 

 

 

 

「………ありがとうございます」

 

 

 

 

 

と、一言。

 

 

まるで風に消されてしまいそうな程か細い声だったのに、俺の耳にはしっかり届いた。

 

 

え……何が…?

 

 

何が『ありがとう』なんだ。

 

 

俺はそれが『今までありがとうございます』のように聞こえて、不安げに瑠華の横顔を眺めると

 

 

彼女は風でなびく髪を押さえながら、咥えた筈のタバコを口から抜き取り

 

 

 

 

 

 

「……あたし……あたしが不安がってると思って打ち明けてくださったんでしょう?」

 

 

 

 

 

ほんのちょっと眉を寄せると、何だか泣きそうな瞳の中、俺の不安げな表情が映り込んだ。

 

 

「正直に話してくださってありがとうございました。それに携帯を見るときあなたは……

 

 

啓は最初から抵抗が無いように振舞って居ました。

 

 

 

そのときから、信じるべきだったのです。

 

 

 

ごめんなさい」

 

 

 

瑠華……

 

 

瑠華が謝ることなんて何一つない。

 

 

いけないのは俺だ。俺はまだ瑠華に『真実』を伝えていない。真咲との過去を―――

 

 

瑠華は風避けにつくった手のひらを壁にして、タバコにとうとう火を点けた。

 

 

その紫煙は

 

 

風で流されることなく、車内に漂っている。

 

 

 

 

 

まるで

 

 

心のくすぶりのように、ただぼんやりと

 

 

 

空気に身を任せている感じに

 

 

 

思えた。

 

 

 

 

 

 

 

P.544


 

 

 

それ以降、瑠華は真咲について何か聞いてこようとしなかったし、敢えて出したい話題でもない。

 

 

俺はそこからいつものテンションに戻って極力明るい話題を振りまいた。

 

 

瑠華はくだらない世間話に少しだけ笑ってくれて、ちょっとずつだけど俺が真咲についての関係性を話したからかな……遠のいた距離が縮まった気がする。

 

 

成田空港の第二ターミナルに到着したのは、そこから40分後だった。

 

 

瑠華の話に寄ると、心音ちゃんは四階のレストランエリアで食事中とのこと。全体的に高級志向な感じを受ける店店が並んでいて、和食の食べられるレストランの前、

 

 

すらりと身長が高く、遠目からも分かる程、抜群にスタイルの良い(美人の)女が大きなスーツケースを脇に、姿勢良くピンと伸ばされた立ち姿で、スマホをいじっていた。

 

 

マスタード色のワイドパンツに、肩回りを繊細なレースで切り替えたノースリーブニット姿。服のセンスも良い。

 

 

黒い髪は毛先をゆるく巻いてあって、口元には真っ赤な口紅。それが危ういぐらい色っぽくて彼女に良く合っている。

 

 

以前の俺だったら、間違いなく声を掛けてるタイプだ。

 

 

すぐに彼女が“心音ちゃん”と言うことに気づいた。

 

 

瑠華が声を掛けるより早く、

 

 

「Hey!瑠華!」

 

 

その女が早くこちらに気づき、明るい笑顔を浮かべて手を振る。

 

 

「Hi」

 

 

瑠華も軽く手を振る。

 

 

瑠華はすぐに心音ちゃんに近づき、お互い軽くハグをしたのち、これまた自然な振舞いで両頬にキス。

 

 

一通りの再会、挨拶を交わしたのち、瑠華の後ろにくっついている形になった俺の姿を目に入れると

 

 

「Wow.彼氏連れ?♪I was surprised.(驚いたわ)

 

 

電話で一度話したわよね?あなたがケイト?」

 

 

と、心音ちゃんはちょっと色っぽく笑う。

 

 

笑い方が―――ほんの少しだけ紫利さんのそれと似ていた。

 

 

 

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心音ちゃんは一度だけ写真で(悩殺!水着姿だったけどな)見たことがある。

 

 

でも

 

 

「写真より美人……」

「写真よりイイ男♪」

 

 

 

俺と心音ちゃんの声が重なって、俺たちは思わず顔を見合わせた。

 

 

瑠華が無表情にじっとこちらを見ている。

 

 

はっ!

 

 

俺としたことが!!俺には極上の瑠華と言う彼女が居ながら、しかも彼女の親友を変な目で見て!

 

 

ヤベっ!!!

 

 

慌てて口元に手を当てると、予想外に瑠華はにっこりと微笑んで、何が可笑しいのかクスクス笑い声まで漏らした。

 

 

「やっぱり二人似てる。タイミングも内容も一緒って……」

 

 

心音ちゃんが居るからかな、ちょっとだけいつもの敬語が抜けてくだけた感じで話してくれるのは嬉しかった。

 

 

とりあえずは、怒って無さそうで良かった~~~

 

 

ほっと息を着いたところで、俺は乗ってきた車が停めてある駐車場まで心音ちゃんを案内することに。

 

 

この後、瑠華の家に行くことになっている。俺が心音ちゃんのスーツケースの取っ手を持ち

 

 

「持つよ」

 

 

と言うと、意外に意外……大きさの割にそれはずっしりと重かった。

 

 

「何が入ってるの?爆弾とか?」冗談で苦笑を浮かべながら、心音ちゃんを振り返ると

 

 

「似たようなものね。私がキーボードを一つ押せば、インターネット界は一変するわ」

 

 

と心音ちゃんが楽しそうに笑って「Bom!」とやや大げさに両手を挙げて、効果音までつけてくれた。

 

 

いや

 

 

いやいやいや

 

 

何なのそれ。

 

 

「キーボードってことはPC類?」この重さだ。「一体何台入ってンの?」と再び聞くと、心音ちゃんは右手で四本指を立て

 

 

それに俺はビビった。

 

 

「あたし、三時間以上PCに触れないと中毒症状を起こすの♪」

 

 

「心音は凄腕のプログラマーです。ネットゲーム界でその名前を知らないと言われる程名が知れているんです。根っからのパソコンオタクです」

 

 

と、瑠華がさらり。「以前は私の会社でSEとして活躍してくれましたが、ファーレンハイトが他社の手に渡り、その際独立を」

 

 

ほ~!!なるほどっ!!

 

 

「結構儲かってるのよ♪」と心音ちゃんは追加情報をくれた。

 

 

「裕二と気が合いそうだな」と思わず漏らすと

 

 

「ユージって誰?Nice guyだったら紹介して♪あたし、Freeなの」

 

 

「以前の会話で出た名前よ。麻野さんって方」

 

 

瑠華が裕二の話を心音ちゃんに!?

 

 

俺の知らないところで俺以外の男の話題を出してたってことにちょっとムっときたが

 

 

まぁ??アイツは認めるのも癪だが整った顔立ちをしているし、昔の裕二ならそっこーで口説きに掛かっているだろうが、生憎アイツはキモい程綾子にぞっこんだからな。

 

 

「残念ね、麻野さんは素敵な恋人が居るの。他を当たって?」と

 

 

瑠華は慣れているのか、心音ちゃんの会話を華麗なまでスルー。

 

 

心音ちゃんはどこかつまらなさそうに唇を尖らせていたが、それでもそれほど気にならないのかすぐにご機嫌になって瑠華と腕を組む。

 

 

「瑠華の新居、はじめて行くから楽しみだわ♪もちろんケイトも一緒にね」

 

 

心音ちゃんは小さくウィンク。

 

 

う゛~~瑠華と出会ってなかったらすぐに手を出したいタイプだが、残念……全然その気になんない。

 

 

万が一の間違いもなさそうだ。

 

 

そのことにちょっと安心。

 

 

 

 

 

P.546


 

 

 

成田空港から瑠華のマンションまで一時間ちょっとと言う距離。六本木の瑠華のマンションに到着したのは20:30を回っていた。

 

 

帰る途中、長いフライトで疲れているだろうに、心音ちゃんはちっとも疲れて無さそうに、さっきから俺たちの仲……と言うかなれそめをしきりに聞いてきた。

 

 

なれそめなんて、ロマンチックには程遠いからな、俺はうまくはぐらかすのに必死。

 

 

言えるかぁ!

 

 

裕二と賭けをしてどっちが早く堕とせるか競ってたのがキッカケなんて。

 

 

心音ちゃんは俺の曖昧な返事に、ちょっと唇を尖らせて

 

 

「Guardが固いのね」と、つまらなさそう。

 

 

さっきも思ったけど、心音ちゃんの日本語は瑠華と違ってちょっとだけぎこちない。俺でも分かる英単語をひっぱり出して喋る辺り、日本にあまりなじみがないのかと思って聞いてみた。

 

 

「心音ちゃんはずっとニューヨークに?」

 

 

「そ。あたしは生まれも育ちもNYよ♪あまり国外に出たことないの」

 

 

聞けば、ちゃんと答えてくれる。美人だから、もっとツンツンしてお高く留まっているのかと思いきや、瑠華より全然気さくで話しやすい←失礼

 

 

「ニューヨーカーかぁ。かっこいいな~」なんて感心しているが

 

 

「心音はこう見えてコロンビア大学卒です。国外に出たことがないと言って居ますが、6か国語を操れます」

 

 

と、瑠華が補足の説明をくれて

 

 

こ、コロンビア大学!!?6か国語!?

 

 

俺は危うくハンドルを切り損ねるところだった。

 

 

「て言うか『こう見えて』って要らなくない?瑠華って可愛い顔してサラッと毒吐くよね」

 

 

後部座席から身を乗り出し、心音ちゃんが俺にこそっと耳打ち。

 

 

ま、まぁ確かに??瑠華がそう言いたい気持ち分かったりもするが。

 

 

『可愛い顔して毒吐く』意見にも賛同できる。

 

 

美女二人と夜のドライブなんて最高のシチュエーションなのに、

 

 

 

 

何かが起きそうな予感!?

 

 

 

 

P.547


 

 

六本木のタワーマンションの瑠華の部屋に着いた頃には、すでに俺はげっそり。

 

 

ただでさえ、今日は携帯で『真咲』の名前を瑠華に見られるし、ちょっと喧嘩っぽくもなっちゃったし、その後緑川ン家に行って二村と鉢合わせるし、ストーカー女はしつこいし!!

 

 

数え上げたらキリがない!

 

 

日記にしたら、ノート一冊じゃ収まんないぜ。

 

 

心音ちゃんはいい子だし、面白いケド瑠華が「破天荒」と言った理由も分かったし。

 

 

マンションのエントランスで、謎のイケメン(年齢不詳)ウチヤマを逆ナンパするし。

 

 

だけどウチヤマは張り付けた笑顔でまるでマニュアルを読むかのように淡々と

 

 

「Welcome.May I help you?(いらっしゃいませ)」笑顔で発音良く心音ちゃんに対応していた。

 

 

東京都心の一等地にマンションを構えるぐらいだかな、外国人なんかの往来や居住も少なくないんだろう。ウチヤマの英語は滑らかだった。

 

 

くっそウチヤマめ!!あの爽やかマスクの下に、ぜってぇ瑠華に下心隠してるに違いない!

 

 

強力なライバルなのに、そいつも英語が堪能ときている。俺は嫉妬心でギリギリと歯軋り。

 

 

「Hey!(ちょっと)」と言って瑠華が心音ちゃんをやや強引に引っ張ってカウンターから引きはがす。

 

 

「こんなところでナンパはやめてよ」と目を吊り上げる。

 

 

「いいじゃない。あたしフリーなんだし。結構タイプ」

 

 

「生憎彼はFreeじゃないわ。高校生の娘さんだっていらっしゃるし、別れた奥様と復縁される予定なの。ちょっかいかけて修羅場にしないで」

 

 

瑠華が咎めるように言って

 

 

「え!?あいつ離婚中だったの…?てか嫁さんと復縁って!?

 

 

ねぇ!何でそんな情報瑠華が知ってるの!?」

 

 

「あたしは何でも知っているのですよ。ふふっ」

 

 

と瑠華が不気味に笑い、

 

 

「Damn it!(ちっ!)」と心音ちゃんは舌打ち。

 

 

何か……俺らホントまとまりねぇな。こんなんで先が思いやられる。

 

 

 

 

 

P.548


 

 

 

4705室。瑠華の部屋に到着してドッと疲れが来た。

 

 

単純に心音ちゃんのスーツケースが重いってのもあるけどね。

 

 

「いいとこ住んでるのね~」心音ちゃんは瑠華が勧めてないのに、我が物顏でソファにドサリと腰掛け脚を組む。

 

 

いいんだけどね、別に。うん。

 

 

綾子だって、裕二ン家でまだあいつらが付き合う前もこんな感じだったし、うん。

 

 

でも、自由過ぎだよ!!

 

 

だけど瑠華は慣れているのか「心音はゲストルーム使って?」と廊下の外を目配せ。

 

 

けれど心音ちゃんは瑠華の言葉を聞いてるのか聞いてないのか

 

 

「一緒に住んでるの?」と俺に質問を投げかけてくる。

 

 

 

「…いや、まだ」

「まさか」

 

 

 

言うまでもなく、前者が俺で後者が瑠華の意見。同じタイミングで口に出た言葉はあまりにも食い違っていた。

 

 

いいんだけどネ、うん……でも全否定されると悲しいよ。クスン。

 

 

「瑠華ってちょっと潔癖入ってるから大変でしょう?」

 

 

と、またもこそっと心音ちゃんは耳打ち。

 

 

「ははっ……」

 

 

俺は苦笑いしか返せない。自分の住む部屋はキレイにしてあるつもりだけど、でも会社のデスクの上は常に「カオス」状態。瑠華から何度指摘されてもあそこだけはキレイにできない。

 

 

と言う出だしはどうであれ、その後俺たちは心音ちゃん→瑠華→俺、と言う順にバスルームを借りそれぞれシャワーを浴び終えるたところで日はとうに過ぎていた。

 

 

夕方の鮭炒飯以来何も食ってないし、瑠華だって昼に牛丼を食べたきりになっている。流石に腹が減ったと言うことで、時間を顧みずピザのデリバリーを頼んだ。

 

 

「「Cheers.(乾杯)」」

 

 

と言って瑠華と心音ちゃんは言って、ビールの入ったグラスを合わせて、アルコールが入ると幾分かリラックスムードになったのがありがたい。

 

 

 

 

 

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アルコールが入ると多少解放的になる。俺は今まで頑なだった瑠華との出会いや付き合うまでのなれそめを、心音ちゃんに質問責めにされて、とうとう口を割った。

 

 

「What!?何それ、初耳!♪」と心音ちゃんは楽しそうに声を弾ませる。「あ~ん!その賭けあたしも参加したかったわ~!」

 

 

「ま、あたしだったらユージに300$だったけどね」

 

 

300$……日本円にして約33,000円ってとこだな。

 

 

まだ会ったことすらない男に3万も賭けるってどうゆう神経。や、賭け事が好きだったら有りかもしれないが。

 

 

瑠華は反撃とばかり

 

 

「ベガスで心音は、クラップスで大損してカジノホストからVIP扱い」

 

 

「クジラと言ってほしいわね」と心音ちゃんはどこか不服そう。

 

 

クジラ……

 

 

ベガスのホテルでの隠語だ。俺も聞きかじった程度だからそれ程知ってるわけじゃないけど、ようは大金を惜しみなく賭ける客のことで彼らはハイローラーとも呼ばれる。

 

 

良く分からないがその賭け金は数百万~1000万以上使うとか何とか。

 

 

クジラは大きな口で一気にたくさんのものを食べらる、またその大きな口で一気にたくさんの息を吐く、と言う意味からその隠語が生まれたのだろう。

 

 

心音ちゃんの事業が儲かってる、って言うのは本当のようだ。

 

 

「同行したあたしはおかげ様で良い待遇が受けられたけど」

 

 

「る、瑠華も賭けを……?」

 

 

隠れた趣味??瑠華がギャンブル好きって想像ができないけど、でもでもギャンブラーでも、俺はそんなの気にしない。かく言う俺も若い頃は麻雀三昧。いくら摩ったか……

 

 

「あたしはギャンブルの類はしません。

 

 

 

 

勝てる勝負しか挑みません。

 

 

ただの付き添いです」

 

 

と、キッパリはっきり。

 

 

かっこいいぜ!と感心してる場合じゃないな。

 

 

そんなこんなで俺は結局、裕二との賭けがキッカケで、瑠華に恋をして彼女に猛アタックした結果が今だ。

 

 

心音ちゃんは俺たちのなれそめを軽蔑するどころか、どこか楽しそうに聞き入ってて、結局夜中の2時になとアルコールのせいもあって俺の疲れは限界。瑠華だって一日俺と裕二、それから綾子に振り回されて疲れていたのだろう。

 

 

何となくお開きになって、俺は当然瑠華の寝室で彼女と二人で寝ることに。心音ちゃんは瑠華が用意したゲストルームで休むことになった。

 

 

「Goodnight」とお互い別れたのは、2時半頃だった。

 

 

 

 

 

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さすがに俺も瑠華も体力的に精神的に疲れているのもあって、お互い体を重ねることなく大人しく就寝。

 

 

ベッドにもぐりこみ「おやすみ~」と瑠華にキスをした後、その後の記憶はさっぱり。つまりすぐに眠りに入ったわけだ。

 

 

だが、どう言うわけか疲れている筈なのに、何故か夜中に目が覚めた。

 

 

嫌な夢を見たワケじゃない。ただ何となく、瑠華以外の女が別室で休んでいると言うことに少しだけ緊張……と言うか、気になってたんだろうな、二時間ほど寝たところで何となく目が覚めた。

 

 

こんなときまで変な神経質は困るぜ。

 

 

瑠華は俺の腕の中、心地よさそうに寝息を立てている。

 

 

俺は瑠華を起こさないよう気を付けて、そっと腕を抜き取ると寝室を出た。

 

 

水を一杯貰うつもりでリビングに行くと、リビングは明かりがついていて、ローテーブルに四台のノートPCを広げてソファに座った心音ちゃんがちょっと真剣そうにモニターを眺めているのを目にして、俺はちょっと目をまばたいた。

 

 

心音ちゃんはすぐに俺の登場に気づいて、四台あるうちの一つのPCを静かに閉じた。

 

 

「どうしたの、こんな時間に。寝れないの?仕事?」

 

 

俺が最初に聞くと

 

 

「時差ボケなのよ。仕事と私用。ゲストルームのテーブルは狭いから四台並べられないから」と心音ちゃんは軽く肩を竦める。

 

 

瑠華が言った通り、心音ちゃんはパソコンオタクのようで、本人が言った通り3時間以上PCに触れないと中毒になると言った言葉がふと蘇る。

 

 

俺はたった一台閉じられたPCが気になったが、仕事だったら外部に情報が漏れるのは良くないことだよな~とすぐに納得。

 

 

 

 

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心音ちゃんは白い大きめシャツ一枚と、ジーンズと言うラフな格好だ。シャワー上がりだからもちろんすっぴんだけど、元が良いのか化粧を落としても美人に変わりない。

 

 

黒い長い髪は後ろでゆるく束ねてあって彼女が俺に背を向けたその瞬間、その白いうなじに目がいった。

 

 

決して変な目で見てたわけじゃねぇぞ!

 

 

心音ちゃんの白くてほそいうなじに、どこかで見た模様のタトゥーが彫られていたからだ。

 

 

普段は下ろしているだろうし、その場所にタトゥーがあることに気付かなかったが。

 

 

「あれ……その模様……瑠華のと……似てる…」

 

 

思わず口に出て、心音ちゃんが振り返り俺は慌てて口を覆った。

 

 

「模様?」最初心音ちゃんは何を言われてるのか分からないようだったが、すぐに「ああ」と合点がいったように束ねていた髪をゆっくりとほどく。

 

 

「瑠華から聞いてない?あたしのこと」

 

 

心音ちゃんに聞かれて俺はゆるゆる首を横に振った。瑠華から聞いてるのは心音ちゃんがかなり「破天荒」な性格をしている。と言うことだけだ。

 

 

「Amazed.(呆れた)」と言って小さく吐息を吐いて、でも言葉とは裏腹に心音ちゃんはどこか明るく笑った。

 

 

「ちょうど良かった。一杯付き合ってよ。最後のアクセサリーを一緒に選んで?」

 

 

心音ちゃんは立ち上がり、キッチンを勝手に漁りながら、「あった。これ、いいじゃん」と言ってワインのボトルを一本手にして元居た場所に帰ってくる。

 

 

ワインはまだ未開封のもので、いかにも高そうなものだった。

 

 

またこの子は勝手に……瑠華に叱られるぞ?とか思ったけど、

 

 

「大丈夫、大丈夫!片付けさえちゃんとしとけば文句言わないから瑠華は」とあっけらかん。

 

 

まぁ?瑠華とは付き合いが長そうだから、心音ちゃんがそう言うのならそうなんだろうけど。

 

 

「アクセサリー?どっか行くの?パーティーとか?」

 

 

俺は少しだけ心音ちゃんと距離を離してソファに腰を下ろした。

 

 

 

 

「Yeah.

 

 

Valentineのハロウィンpartyに呼ばれてるの」

 

 

 

 

ヴァレンタイン―――………!?

 

 

って、マックスの――――

 

 

 

 

「何で

 

 

何で、心音ちゃんが―――……?」

 

 

 

 

至極当たり前な質問だった。

 

 

 

 

 

 

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心音ちゃんは、まるで薔薇のようにも血のようにも見える赤い液体……でも、どちらも例えるには微妙に違う色をしていた液体を二つのグラスに注いで、一つを俺に寄越してきた。

 

 

何故心音ちゃんが瑠華の元旦那のヴァレンタイン財団のパーティーに出席するのか気になって、グラスを手渡されても乾杯することすらできなかった。

 

 

ダメだな、俺。瑠華の元旦那の名前を少しでも耳にすると、過剰な程反応…と言うか動揺?しちまう。

 

 

心音ちゃんはそんな俺の心情を知ってか知らずか、俺のグラスにカチンと合わせて勝手に「乾杯」

 

 

ソファに深く背を着くと心音ちゃんは両腕をソファの背に投げ出し、ゆっくりと脚を組んだ。

 

 

 

 

 

「元々Maxを瑠華に紹介したの、あたし」

 

 

 

 

 

と、何の前触れもなく唐突に話しだされて俺はグラスを持ったまま目を開いた。

 

 

「瑠華はFahrenheitを立ち上げたばかりだったから、どこか強力なConnectionを作った方が良いって、勧めたの。

 

 

Maxの性格はともかく、そのNamingvalueは魅力的だと思わない?」

 

 

悪戯っ子のように微笑まれ、俺はぎこちなく頷いた。確かにヴァレンタインのネームバリューは心音ちゃんが言う通り魅力的だ。

 

 

「Maxとあたし、ちょっとした繋がりがあって。あ、勘違いしないで。Boyfriendとかじゃないから。

 

 

でも……そうね、最初は単なるBusiness目的だったわ」

 

 

元々水を一杯貰うつもりでここに来たのが目的だったから喉は渇いていた筈なのに、俺は心音ちゃんから差し出されたワインを喉に通す気になれなかった。

 

 

心音ちゃんがマックスを瑠華に紹介しなかったら、瑠華があんな風に傷つくことはなかったんじゃないか―――

 

 

と思うが、その一方で、

 

 

いや、瑠華と俺が出会えたのも、瑠華がその道を……過去を通ってきたからだ。もし瑠華がマックスと出会って居なかったら、俺も瑠華に出会えてなかったかもしれない。

 

 

そう思うと、ちょっとだけ心音ちゃんのしたことがありがたく思えてきて

 

 

俺はようやく差し出されたワインに口を付けることができた。

 

 

それはガツンとした渋味と重さをした、フルボディだ。瑠華が好きな種類。

 

 

不思議だな。瑠華と出会ったばかりの頃は、瑠華がどの種類のワインを好きか、なんて知る術もなかった。

 

 

けれど、最近俺は会社での単なる同僚以上の情報をたくさん知ってる。

 

 

そう思うと

 

 

 

やっぱり心音ちゃんには感謝かな……

 

 

 

 

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「瑠華は最初渋ってたけどね。

 

 

でも会社ってキレイなものだけでは作れない。どんなものでも利用できるものはしなくちゃ」

 

 

心音ちゃんはあっさり言ってワイングラスに口を付ける。

 

 

今、気づいた。薔薇でもなく血でもなく、それは心音ちゃんが今日付けてた口紅の色と似ていたんだ。

 

 

俺は心音ちゃんの意見に

 

 

 

 

賛同できる。

 

 

 

 

経営者だけじゃない。会社員だってそう。そのハングリーさがあるかないかで、出世街道に乗れるか乗れないか左右されるのだ。

 

 

だからある意味二村がやってることも、俺の考えでは「No」ではないが、やり方には賛同できかねる。

 

 

「最初はホントにBusinessだけのつもりだった。ちょっと顏を売っておけば何かの時に役に立てるかと思ってたし。

 

 

Maxは女好きで派手に遊んでたけど、瑠華がタイプだとは思わなかったしね」

 

 

なぬ!?瑠華がタイプじゃないだと!?

 

 

あんな美人を紹介されたら俺なら速攻で口説きに掛かってるってのに!

 

 

「Maxの好みはBrunetじゃなく、Blond派だったし。お堅い感じの瑠華よりも軽く遊べる手軽な女が好きだったから」

 

 

……何か……激しく誰かと被るんスけど……

 

 

ブルネット(黒髪)かブロンドか、にはこだわらないが…

 

 

「ほら、アイツ顏だけはいいでしょ?おまけにValentineの名前もお金もあれば、言い寄ってくる女はたくさん居たわけよ」

 

 

ああ……

 

 

もう否定しようがないぐらい似てる。

 

 

それって前の

 

 

 

 

「俺」

 

 

 

 

とまんま一緒じゃん!!!

 

 

 

 

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