C'est la vie!

*ジンクスの屋敷で*

第一話 「受験生は辛いよ。」


 

 

 

 

 

あたしの住む小さな街では

 

 

これまた密かなジンクスがある。

 

 

 

 

 

それは

 

 

 

街のはずれにある古~いお屋敷…西洋風の立派な建物にお願いに行くと、

 

 

 

 

 

願いを叶えてくれる。

 

 

 

 

そのお屋敷は通称「お化け屋敷」ここ何十年も人の気配がなく、手入れをするものも居ないからお屋敷は荒れていく一方。

 

 

 

それはそれはひどい荒み具合だとか。

 

 

 

 

 

 

………って。

 

 

 

 

今時、神社だってそんなこと聞いてくれるなんてことないのに、

 

 

 

ジンクスとか…

 

 

 

 

でも、もし願いが叶うのなら。

 

 

 

 

 

 

 

あの人に―――

 

 

 

たった一言、

 

 

 

 

 

 

「好き」

 

 

 

 

 

 

 

を伝えたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.1


 

 

あたし

 

 

 

 

―――結城 明日未(Asumi Yuki)は、現在中学三年の受験生。

 

 

 

 

 

来る日も来る日も、勉強、勉強、勉強!!

 

 

もういやっ!!

 

 

なんて参考書を放り投げだしたくなるけれど、

 

 

 

 

――――“死にたい”なんて思ったことなんて一度も無い!

 

 

 

 

「勉強しなきゃ」

 

 

 

無意識につぶやくと、

 

 

 

「もう死んでるのに?」

 

 

 

と隣から、からかうような男の子の声が聞こえてくる。

 

 

 

「それだったらさ~成仏できる方法を考えた方がいいんじゃない??」

 

 

 

 

そうだった―――……

 

 

 

 

 

 

あたし今、幽霊なんだよね……

 

 

 

 

 

ついでに言うと、天井まで伸びた立派な本棚の前で座っているあたしの後ろを、ふわふわと漂っているこの男も、

 

 

 

 

 

幽霊。

 

 

 

 

 

ついでに言うと、ずっと好きだった人……

 

 

 

 

 

は~っとため息を吐くと、

 

 

 

「俺の心臓……どこへ行った?」

 

 

 

彼があたりをきょろきょろし始めた。

 

 

 

 

はぁ~~~…

 

 

 

 

あたしはまたも盛大にため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

あたし―――好きになる人間…いや、幽霊か……間違えたかも(泣)

 

 

 

 

 

P.2


 

 

 

――――そもそもあたしは何で死ぬことになったのか、何故好きな人も幽霊なのか、そこから説明します。

 

 

 

 

 

街のはずれにある、古い西洋風のお屋敷。

 

 

通称、「お化け屋敷」

 

 

彼は来る日も、来る日も―――そのお屋敷の三階部分の出窓から外を眺めていた。

 

 

 

 

春、淡い色をした薄紅色の…桜の花びらが舞い散る中に浮かび上がる切なそうな横顔。

 

 

夏、蝉時雨に耳を傾けながらも、どこか寂しそうにしているところとか。

 

 

秋はチョコレート色に染まった枯葉を手に掬いながら、どこか物憂げな様子…

 

 

そして冬―――

 

 

 

気温がぐんと下がった寒い夕暮れでも、彼は例の出窓に頬杖をついて遠くを眺めている。

 

 

 

 

ネイビー色の洒落たネクタイに、白いワイシャツ。

 

 

あたしの行きたい高校の―――制服だった。

 

 

 

 

淡い栗色の髪はさらさらしていそうで、肌も白い方。体の線が細くて、柔和な顔立ちをした優しそうな…

 

 

 

かっこいいけど、

 

 

 

 

 

何ていうのかな……全体的に色素が薄い…いやいや…

 

 

 

 

 

"儚げ”

 

 

 

 

 

そう!その言葉がしっくりくる。

 

 

 

 

 

何でいつもその場所に居るの?

 

 

 

 

何を見ているの?

 

 

 

何でそんなに――――哀しそうなの………?

 

 

 

 

 

 

 

とにかく、元が超怖がりのあたしは遠回りをしてまでこの道を通るようになったのも、

いつしか彼のことが気になって、彼のことを知りたくなったのも

 

 

 

 

半年ほど前から。

 

 

 

 

 

 

これを好きって言うんだろうな。

 

 

 

 

 

P.3


 

 

彼が何故そのお屋敷に居るのか分からなかった。

 

 

お屋敷は柵の一部が壊れていて、敷地内に入ることはできるらしいけど、いかにも重そうなお屋敷の扉には鍵が掛かっていて、中に入ることができないらしい。

 

 

肝試しに行ったって言うクラスの子がそう言っていた。

 

 

じゃあ彼はどうしてあの場所に居るのだろう。

 

 

まさかと思うけど………お化け??

 

 

う゛~~ん…そんな風には思えないんだけどな。

 

 

いかにも儚げで浮世離れしている感はあるけど、だって物憂げな表情とか―――なんかリアルな気がする。

 

 

それに、あたしにはまったくと言っていいほど霊感はないし、幽霊とかゾンビとかの話は聞くだけで耳を塞ぎたくなる程怖がりだ。

 

 

 

だけど彼を見てもちっとも怖くなんかない。

 

 

 

 

 

 

―――入試をあと一ヶ月に控えた冬のある日。

 

 

 

「ねぇねぇ!街のお化け屋敷行こうよ!願いが叶うんでしょ?願掛けに」

 

 

と、幼馴染で親友のサヤカが言い出した。

 

 

「行く!」

 

 

あたしはサヤカの手を握って勢い込むと、その隣からアヤメが疑り深い目でじとっとあたしを見てきた。

 

 

 

砂糖みたいにふわふわして可愛いサヤカとは対照的に、スパイシーな美人タイプのアヤメ。

 

 

あたしたち三人は幼稚園からの幼馴染で親友。

 

 

「明日未って超が付くほど怖がりじゃない。どうゆう風の吹き回し?」

 

 

「えっと……」

 

 

好きな人と喋れるチャンスかも!なんて言えない…

 

 

 

あたしは受験生だし。

 

 

入試を目前に控えているのに、恋愛にかまけてなんかいられない。

 

 

 

 

 

 

だけどもう少し近くで見られたら、受験もがんばれるもん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

P.4


 

 

 

西洋風のお屋敷の、敷地の周りはアイアンで象ったお洒落な柵がぐるりと囲んでいた。

 

 

でも黒い鉄のほとんどが雨で錆び付いてる。

 

 

手入れをしていない庭木の草や蔦が柵に絡まって、見るからに「出そう」な雰囲気。

 

 

遠目からお屋敷を見ると、壁は土色のレンガで造りで、可愛いらしい出窓がいくつも飛び出ている。

 

 

でも窓のほとんどがヒビが入ったり、蜘蛛の巣が張ってたり、割れていたりする。

 

 

「おもしろそう♪いかにも出そうって感じじゃない?」と最初は渋っていたアヤメがわくわくと顔を輝かせる。

 

 

あたしは…と言うと…

 

 

ほ、ホントにこんなところにあの彼が居るのかなぁ

 

 

その考え自体疑わしくなっちゃって、足ががくがくと震えた。

 

 

アヤメが言った通り、あたしは超!が付くほど怖がりだから。

 

 

二人はあたしの恐怖をよそに、柵の一部が壊れているところを見つけてするりと入り込んだ。

 

 

「ちょ、ちょっと待って」

 

 

こんなところで一人置いていかないでよ~(泣)

 

 

庭は、思った通り草が生え放題。西洋風の椅子やテーブルも長い間雨風にさらされ朽ちていたし、ついでに言うと時期も悪い。

 

 

山へ行けばそれはきれいな赤や黄色で身を飾る木々も、ただの薄汚れた茶色にしか見えなくて、

 

 

それが一層この屋敷を陰気に…恐ろしく見せていた。

 

 

震える足を何とか奮い立たせ、二人の後を着いて行くと、

 

 

 

カタン…

 

 

 

頭上で小さな音がした。

 

 

 

 

 

 

P.5


 

 

二人は気付いていないのか、足を止める事なくきょろきょろと視線を巡らせてあちこちを見渡している。

 

 

ギィ…

 

 

軋んだ木の音がして、あたしは顔を青くしたまま……それでも音の正体を知りたくて、恐る恐る顔を上げた。

 

 

塔のような高い建物の三角屋根の下に出窓があって、そこから

 

 

 

 

 

男の子が顔を出している。

 

 

 

 

 

 

びっくり―――した……

 

 

 

 

だっていきなり会えるとは思ってなかったから。

 

 

 

 

声も出せずにじっとその様子を凝視すると、男の子は出窓を開け放ち、窓の手すりに腕を乗せて、遠くを見ていた。

 

 

 

 

 

目を細めて眩しそうに空を眺め、頬杖をついて吐息をつく姿は妙に物憂げで、

 

 

 

 

やっぱり、どこか寂しそうだった。

 

 

 

 

あたしがその様子をじっと眺めていると、不意打ちに彼があたしの方を見下ろしてきた。

 

 

 

びっくりしたように目を開いて、あたしたちに気づくとぱっと窓の内側に引っ込む。

 

 

 

 

 

 

ま、待って!

 

 

 

 

ぎぃ…

 

 

 

 

「あ、開いたよ!明日未!」

 

 

あの彼に気付いていないのか、サヤカとアヤメが扉を外側に開く。

 

 

嘘……

 

 

だって開かない筈じゃ―――………

 

 

 

 

何で―――…

 

 

 

 

 

扉が乾いた音を立て、屋敷内に響き渡ったように思えて―――あたしの背中にゾクリと悪寒が走った。

 

 

 

 

 

 

P.6


 

 

屋敷の中は当然ながら電気が通っていなくて真っ暗で、埃とカビの臭いが立ち込めていた。

 

 

外国のホラー映画に出てきそうな内装に思わず足がすくむ。

 

 

あの人が本当にこの中に……?

 

 

「ぅわ。中も凄いね~」とサヤカが恐る恐る言ってあたしにぎゅっと寄り添ってきた。

 

 

「って言うかお願いごとってどこですればいいわけ?」一方のアヤメはあっけらかんとしている。

 

 

「えっと……確か、一番高い階の一番中央の窓から外を見ながら願掛けするんだって」

 

 

とサヤカが言って、あたしは思わず止まった。

 

 

 

一番高い階の、中央の窓―――………

 

 

 

 

 

 

 

そこは彼がいつも居る場所―――

 

 

 

 

 

 

「お、おじゃましまーす…」

 

 

仮にも他人の土地だし、礼儀だよね…

 

 

誰に言うわけでもなくあたしたちはそろりと屋敷のボロボロの階段を、恐る恐る昇った。

 

 

踊り場までたどり着くと、

 

 

 

 

 

 

「Welcome♪」

 

 

 

 

 

 

ぽっかりと暗い渦を巻いた階段の、さらに上の方から声が聞こえて、

 

 

 

「幽霊!?やだ!!無理っ」

 

 

サヤカが叫んで走り出す。階段を下り、あたしはびっくりしたのと恐怖で足がすくんで一歩もその場から動けなかった。

 

 

「ちょっとサヤカ!」アヤメがサヤカの後を追って、

 

 

バタン!!

 

 

二人が外に飛び出たのを見計らったように扉が勢い良く閉じた。

 

 

 

――――!!!

 

 

 

P.7


 

 

一人こんな場所に置いていかれたことと、扉が勝手に閉まったことにあたしはパニック状態!

 

 

 

「キ…キャーーーー!!」

 

 

 

思わず叫ぶと、

 

 

「お、落ち着いて!」と男の子の声が。

 

 

シャッとカーテンか何かを開ける音がして、暗闇に染まっていたあたしの視界をまばゆい光が飛び込んでくる。

 

 

眩しい光は外の陽光で、広い踊り場にはめられた大きな窓から光が差し込み、

 

 

 

その光の中に見慣れた彼の姿がぼんやりと浮かび上がった。

 

 

キラキラ…

 

 

夕日に映し出された彼の色素の薄い茶色い髪や瞳が輝いていて―――とってもきれいで

 

 

思わず見惚れてしまって口を噤んだ。

 

 

そして数秒遅れてあたしは、はっと我に返り、

 

 

びっくりしながらも、その彼のつま先から頭のてっぺんまで視線を巡らせた。

 

 

ちゃんと足ある……(しかも長い!)

 

 

「大丈夫?」

 

 

低くて、優しさを漂わせた―――甘い声。

 

 

ドキドキして心臓の辺りを押さえると、

 

 

ボトッ

 

 

何かが足元に落ちた。

 

 

音がした方を見て、あたしは今度こそ後ずさった。

 

 

 

 

 

それは茶色い色をした心臓だったから。

 

 

 

 

 

「――――!!!」

 

 

 

声にならない悲鳴を挙げて、今度こそ尻餅をつくと、

 

 

「これがどうかした?」

 

 

と彼が“それ”を拾い上げる。

 

 

え!ぇえ!!?

 

 

 

「し、心臓!」

 

 

 

だってそれ心臓だよ!!何で普通に持てるのよ!!

 

 

はっ!もしかして!!彼は幽霊なんかじゃなく殺人鬼!?

 

 

イギリスで有名だった切り裂きジャック!?

 

 

確かあの殺人鬼は女の人の内臓とかを死体から取り出してホルマリン漬けにしてたとか…

 

 

彼もここに興味本位でやってくる人たちを殺して、ひそかにあのお屋敷の中にコレクションしてるんだ!

 

 

 

 

あ、あたし殺される―――!!?

 

 

 

 

P.8


 

 

怖くて怖くて怖くて……立ち上がれない。

 

 

腰が抜けた!

 

 

びっくりして口をぱくぱくさせているあたしに、彼は心臓を持ったままきょとんとして、

 

 

「ああ、これ?心臓……に見えなくはないけど…香水瓶だよ。セラヴィって書いてある」

 

 

香水の…瓶…………

 

 

彼はちょっと苦笑を漏らして、オレンジ色の蓋を外した。

 

 

中からふわりとまったりと甘い…それでいて上品な香りが香ってきた。

 

 

心臓―――…じゃなかった!

 

 

確かに良く考えたら色だって琥珀色だし、第一固そうだ。薄暗い中であんなものを目にしたから心臓と間違えちゃったんだな~

 

 

恥ずかしい!!

 

 

思わず顔を赤くして立ち上がろうとすると、彼が手を差し伸べて助け起こしてくれた。

 

 

わ…わぁ!!

 

 

ただでさえかっこわるいとこ見せちゃったって言うのに…

 

 

でもこれはラブアクシデント??

 

 

「ところで君はどうしてここに居るの?」

 

 

彼の質問にあたしは顔を真っ赤にして、

 

 

「願掛けにきました!あ、あなたはほとんど毎日ここに居ますよね。どうしてですか?」

 

 

思わぬ出来事があったけれど、ここで話さないと一生お近づきになれないかもしれない!

 

 

 

あたしは勇気を振り絞って聞いてみた。

 

 

 

 

P.9


 

 

 

「俺?俺は……」

 

 

言いかけて彼はう~ん…と首を捻った。

 

 

だけどすぐに、ドキッとするぐらい素敵な笑顔を浮かべて、

 

 

「さあ、何でだろうね…ここから離れられないんだ」

 

 

とさらりと言った。

 

 

あまりの爽やかスマイルに一瞬何もかもがどうでもいいように思えたけど…

 

 

は!?

 

 

「ここから離れられないって…どうして…」

 

 

「うん。どうしてだろう」

 

 

彼は再び考え込む。

 

 

えーっと…これって…

 

 

「……こ、ここに住んでるってことですか?」

 

 

「いや。住んではいないよ。ここ電気もガスも通ってないし」

 

 

「で、でも離れられないって…」

 

 

だめだ。堂々巡りじゃん。

 

 

この人不思議クン??会話が成り立たないじゃん!

 

 

でもだめよ、明日未!たとえあたしの好きになった人が不思議クンでも、ずっと想い続けてきたじゃない。

 

 

「あ、あの名前教えてください!」

 

 

思い切って聞いてみた。

 

 

「俺?」

 

 

ここにはあなたしかいません。

 

 

 

かっこいいけど―――やっぱ不思議クンだ…

 

 

 

 

 

「俺、レイ」

 

 

 

 

P.10


 

 

 

 

「(幽)霊―――!!!」

 

 

やっぱり!

 

 

半分そうじゃないかって疑ってたけど…足あるけど…光の中で姿が見えるけど!!

 

 

やっぱりお化け!?

 

 

ズサッ!

 

 

思わず後ずさると、彼はちょっと半目になって

 

 

 

 

 

「漢数字のゼロで、零だよ。ちなみに人間デス」

 

 

 

 

 

と呆れたように腕を組んだ。

 

 

人間―――……

 

 

それでも疑わしい目つきで彼をちらりと見ると、彼はあたしの手をぐいと取って自分の心臓の辺りに這わせた。

 

 

あったかい……

 

 

制服の上から通しても分かるほどの温もり。

 

 

初めて触れる男の子の体は、女の子とはやっぱり違ってしっかりとした筋肉がついていて、

 

 

その細い体からは想像できないほどしっかりした造りだ。

 

 

…幽霊じゃない…??

 

 

いやいや違うだろ!って言うかこれってセクハラ!?

 

 

はじめて男の子の体に触れたのと、急なことに驚いて

 

 

あたしは叫び声を上げて、一歩下がった。当然踊り場の床が続いているものだと思っていたけれど、だけどあたしの足は床を踏み鳴らすことなく宙に浮いた。

 

 

 

「危な……!」

 

 

 

彼の大きな声が聞こえて、視界が回転する。

 

 

彼の背後の大きな窓や、高い天井からぶらさがった古びたシャンデリア。陽の光りですっかり色あせた絨毯とかがスローモーションに流れて…

 

 

 

 

落ちる―――……

 

 

 

 

そう実感すると同時に彼の―――ううん…零くんの顔が視界いっぱいに映った。

 

 

 

 

――――……

 

 

 

P.11


 

 

 

 

 

 

 

何が――――

 

 

 

起こったのか―――分からない。

 

 

 

 

 

ただ頭が……

 

 

 

痛いと言うより、猛烈に熱い。

 

 

 

頭打ったのかな……やだ…覚えたばっかりの英単語とか数式とか……

 

 

あたしの目の裏から零れて、高い天井に高く高く―――消えていく。

 

 

 

 

せっかく覚えたのに…全部消えちゃわないで…

 

 

 

 

 

でも―――もうその感覚すら、薄れていくよ―――

 

 

 

 

あたしは開いたままの目でゆっくりと横を向いた。

 

 

 

 

 

あたしの体を庇うように――――零くんの腕があたしの体をぎゅっと抱きしめている。

 

 

零くんの額から鮮やかな色をした血が―――流れている。

 

 

やっぱり零くん…お化けじゃなかったんだね。

 

 

 

 

だってこんなにもあなたの血は赤くてきれい……

 

 

それにあったかいよ。

 

 

 

 

 

 

 

でも零くん―――

 

 

 

 

 

 

 

 

何であなたの心臓の音―――…聞こえないの……

 

 

 

 

 

 

反対側を見ると、セラヴィの瓶がヒビ一つ入っていない無事な姿なまま転がっていた。

 

 

 

 

 

 

どうして

 

 

 

 

 

 

だめだ……意識が遠のく……

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

P.12